8月24日(日) 15:00~16:20
視感比色の基礎とトレーニング
名取 和幸 先生
一般財団法人日本色彩研究所 理事長
人工歯の審美性は、その色つや透明感といったアピアランスから総合的に評価される。色に関する人の識別力はとても優れており、適切な照明下で、一般的な色覚特性の人が隣り合う2色を見た場合には、750万色程度が区別できると試算されている(Nickerson & Newhall 1943)。また白い歯に対する嗜好のバイアスもあり、患者による歯冠色の好ましさ評価は感覚的かつ心理的なものといえる。
人工歯の作成指示や選択はシェードテイキングにより行われるが、色の選択や指示は中々に難しい。色は、光の波長ごとのエネルギーの違いが生み出す「三次元的」な「視感覚」であるためである。つまり一つには色相、明度、彩度といった色の三次元性が色の把握の難しさを生んでいると考えられる。また、色は隣に置かれた色や、大きさによっても変化する感覚である点も厄介である。そして色が同じか、色がズレているかを判断する能力はほぼ生得的なもので優れていても(そのため色ズレのクレームは誰もができてしまう)、歯の色に対して2つのシェードのどちらの色の方がより近いか、好ましい色であるかを選択することは困難度を増す。さらにこのシェードの色からどのように色をずらしてほしいかという指示を歯科技工士に適切に行うことは、歯にシェードを映し込んだ写真画像をつけても難しい。
適切なシェードテイキングのためには、色の基礎の学びに加え、色を体系的に把握する訓練が有効である。そこで本講座では以下のように解説と実習を行う。
●講座の前半ではシェードテイキングのために必要となる、「視感比色のための色の基礎知識」について下記項目を概説する。
- 色は、照明と物(歯・シェード)と人(患者・医師技工士)の三者により生まれる。
- 同じ対象も照明と人によりその色は変化する。ある照明下で同じ色に見える2色も、照明が変わると色がズレて見えることがある(条件等色)。
- 色は隣接する色や挿入される色により変化して見える(色の同化と対比)。
- 蛍光色について
- JIS標準色票を用いた視感比色の方法
●後半は「色の三属性と三属性感覚トレーニング」を行う。色を把握する力を高めるため、色の三属性により色を体系的にとらえられる力を高めるための解説と実習を行う。
- 色の三属性(色相、明度、彩度)とそれにより作り上げる色空間(色立体)について
- 色立体人間になって色と三属性との対応をイメージしてみる方法(実習)
- カラーカード並べ(色相黄の等色相面づくり。明度と彩度による体系的な配列)
- 色相、明度、彩度感覚(2色の色ズレが三属性のどれかを判定)
最後に簡単なまとめを行う。
【ご略歴】
1990年 学習院大学大学院人文科学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学
1990年 財団法人日本色彩研究所 研究第1部心理調査研究室入所
2012年 一般財団法人日本色彩研究所 理事/研究第1部シニアリサーチャ
2019年 同研究所 常務理事/研究第1部シニアリサーチャ
2025年 同研究所 理事長
【教育活動】
多摩美術大学(1993年)、女子美術大学(1996~2012年、2016~現在)、文化学園大学(2003~2021年)、東洋大学(2013年~現在)、沖縄県立芸術大学(2020年~現在)において非常勤講師
【学会活動】
日本色彩学会(副会長、関東支部長、学会誌編集委員会委員長歴任)、日本建築学会、日本心理学会、日本行動計量学会会員
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