8月24日(日) 11:00~12:30

天然歯と調和する補綴歯科治療
―チームアプローチによる色調再現の探求―

三浦 賞子 先生
明海大学歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野

補綴歯科治療において、天然歯と調和した色調を再現することは、審美性を高めるにとどまらず患者満足度の向上に直結する重要な課題である。とりわけセラミック修復では、材料の光学的特性に対する理解の下、歯科医師と歯科技工士が密接に連携する「チームアプローチ」が求められる。
近年、歯科用ジルコニアは高強度を維持しながらも、イットリアの含有量を高めることで高い透明性を示すことが可能となったことで、ジルコニア単一構造での前歯部補綴への応用が拡大している。イットリア含有量3 mol%(3Y)の正方晶多結晶体(TZP: Tetragonal Zirconia Polycrystal)のジルコニアは高強度であるが、透過性に乏しく陶材築盛による審美性の再現が必要である。それに対しイットリア含有量5 mol%(5Y)の部分安定化ジルコニア(PSZ: Partially Stabilized Zirconia)は透明度が高く、天然歯に類似した明度と色の深みを再現しやすいため、陶材築造を必要としない反面、強度への配慮が必要となる。したがってそれぞれの症例の要求に応じた材料選択と、補綴装置の厚さの設計が極めて重要となる。
ジルコニアの厚さは、光の透過性やレジン系装着材料の重合にも大きな影響を与える。例えば厚さ1.0 mm以上の5Y-PSZでは、光の透過が大きく減少し、装着材料の重合不良を引き起こすリスクがある。これは最終補綴装置の物性低下や脱離の原因となるため、臨床においては補綴装置の厚みと光照射強度のバランスを慎重に見極める必要がある。さらに最終的な色調再現には、装着材料の色の影響も見過ごせない。特に、高透光性ジルコニアを用いる場合、内面に塗布されるセメントや支台歯の色が透過してしまい、補綴装置全体の色調に顕著な影響を与える。そのため歯冠のシェード選択が適格に行われるのはもちろんのこと,各社が提供するホワイト、クリア、アイボリーなど多彩なセメント色の中からどれを選択するかも重要となる。
このような複雑な要素を最適に組み合わせるためには、学際的知見を共有しながら、歯科医師と歯科技工士が密に連携するチームアプローチが不可欠である。診断時の情報共有、写真記録やデジタルシェード測定、補綴装置の材料や装着材料の選択に至るまで、全工程において意思疎通を図ることで、審美性と機能性を両立した補綴歯科治療が可能となる。
本講演では、デジタルを応用した補綴歯科治療を紹介しながら、チームアプローチによる成功の鍵について考えたい。さらに、近年注目される画像解析を活用した補綴装置のデザインにも触れ、今後の補綴歯科におけるデジタルと色彩調和の可能性についても考察する。本講演が、歯科色彩のハーモニーというメインテーマの実現に向けた一助となれば幸いである。

【ご略歴】

2002年 岩手医科大学歯学部 卒業
2006年 東北大学大学院歯学研究科 修了
2006年 東北大学病院歯科咬合修復科 医員
2015年 東北大学大学院歯学研究科分子・再生歯科補綴学分野 助教
2018年 明海大学歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野 講師
2020年 明海大学歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野 准教授
2021年 明海大学歯学部機能保存回復学講座クラウンブリッジ補綴学分野 准教授
2022年 University of Turku, Turku Clinical Biomaterials Center-TCBC, Visiting Researcher

大会事務局

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